半島のはずれに位置する噴水広場は、海にせり出すようにして作られた静寂の場所だ。
ここから狭い通りを歩いてゆけば、側面に沿って建てられた灯台に上ることができる。
鉄骨を組み上げて作られたそれは、まるで大きな恐竜の化石のようで、下から見上げるとなかなかに迫力があるのだ。
そこは、町の住民みんなが大好きな場所だった。
頂上の展望台に足を運べば、まるで町中の色鮮やかなたのしみを、ドールハウスにとじこめてしまったかのように眺めることができる。
クレープの屋台のパステルカラーのストライプ、海辺の町にぴったりのレンガの朱、季節に彩られた日時計の花壇、そしてベンチにくくりつけられた黄色の風船。
あらゆる悲劇を喜劇に変える町。
それが、この町に言い渡されている動かしがたい言い伝えだった。
幼いころから、気がつけば何の疑いもなくこの町に住んでいたコウタであっても、その言葉の意味をなんとなくは理解することができる。
戦を終えた三姉妹が微笑みをかわし、引き裂かれた姉弟が手と手を取り合う。
過去を切り捨て、汚い感情をすべて洗い流し、その人が最も輝いていた時間に戻ることが出来る。それが、この世界のはずれの町の正体だった。
あたり一面には笑顔の華が咲き乱れ、誰ともなく歌い出した小唄が大合唱へと変わる。
「――でも」
はた、と思いだしたように足を押し留め、コウタは軽く小首を傾げた。
正直なことを率直に言うと、コウタはべつに、何か特別に哀しい思いをした覚えも、また特別に嬉しい思いをした覚えもない。
そりゃあ、ずば抜けて親しい人がいて、楽しい話題が出れば笑うかもしれないけれど、楽しいことがないときに笑えと言われても、それはそれで無茶な注文だ。
だから、やたらと嬉しそうに笑い合う人たちのことを見ていても、別段混ざりたいと思うようなことはなかったし、たとえ混ざったところで、何か気の利く話が出来る自信もなかった。
もともと、人ごみとかそういう面倒なものは苦手なたちなのだ。
「つまんね」
だからこそ、人気のない小さな噴水広場は、いつでもコウタの味方だった。
今日もまたここからこっそり人の波でも眺めて、たいくつな時間を思うがままにつぶそう。