そう、思っていたのに。
「……あれ?」
その日、いつもの見慣れた噴水広場の中に、いつもと違う異質なものを見つけてしまったことが、コウタの運の尽きであった。
茶色い砂ぼこりをてんてんとかぶった、みかんを詰めるための段ボール箱の中に、くるりとぜんまいを描く緑色の芽を見つけたのだ。
「……なんだろう、あれ」
気だるげにつぶやいた口とはうらはらに、足の方は好奇心に耐えきれなくなったかのように動き始めている。
でこぼこと隙間の大きなレンガの道に、何度も爪先をとられながら、コウタはなおも前へ前へと進んでいった。
しかし、その段ボールに貼りつけられた「拾ってください」の紙を認めた瞬間、コウタは弾かれたように後ろへ後ずさってしまう。
「く……あ、あれは!」
高鳴る動悸を必死におさえこみながら、コウタは見てはならなかったものの正体をさとっていた。
実は彼、人混みもなれ合いもたいそう苦手だが、捨てられて丸くなっている子猫をみると、絶対にほうってはおけない体質持ちなのだ。
「いやいや、落ち着くんだ遊音コウタ。冷静に考えろ、そしてよく見ろ。たしかにあの段ボールには見慣れたうたい文句が貼りつけてあるが、相手はいつもの子猫じゃなくて、ただの緑色のよくわからない……っていうか、あれはいったい何なんだ、花か? 花なのか?」
一見してみると確かにそれは、ぜんまい状の新芽をたずさえた、鉢植えのミニサボテンのようにも見える。
しかし、それがふつうの植物と異なっている点は実に明らかだった。
まず、その見たこともない花の背後には、薄く透き通った四枚の羽が立てかけられていた。
よく、図鑑などで見かける昆虫の背中で、無数の羽音を奏でるたぐいのものだ。
そしてもう一つ、あえて決定的な点を述べるとするならば、その植物にはまんじゅうのようにやわらかそうな、もちもちの顔がついている。
今は目を閉じて眠っている様子であったが、きっと鼻や口なんかもいっしょについているに違いない。
本当に、あれはいったいぜんたいどういう生き物なのだろう。
視力が落ちたせいで子細に見えないところや、段ボールの影に隠れて、判別がむずかしい部分もあったので、コウタはそろりそろりと音を潜ませて、もう一歩足を踏みだした。