Scene6

Wing notes-6


 うねる坂道をずんずん越えて、ふたりは西の丘の上にやってきた。
 そよぐ風の音が頬をなで、時折枝から離れた木の葉が宙をなぐ。
 一面に広がるクローバー畑を見渡して、ぱみゅがわぁっと明るい歓声をあげた。
 ほてった頬を冷やす温度が心地よく、自然とコウタの目元もゆるんでしまう。

「すごい! こんなにたくさん、クローバーの葉っぱがあるなんて!」
「まぁ、これだけたくさんあるんだったら、四つ葉のクローバーだってひとつやふたつは見つかるんじゃないの」

 しかし、さっそくしゃがみこんで靴の間をのぞき見ると、なんともまぁ見事なほどに、三つ葉、三つ葉、三つ葉。
 まだ自分の手元しか見ていないので、あたりまえといえばあたりまえのことではあるのだけれど、まさかこんなにも見事に三つ葉しかないとは、とコウタは目を丸くした。
 それでも、このまま黙って引き下がるわけにもいかず、コウタはあきらめずに手元をまさぐり続けた。
 いつしか、自分がすっかり夢中になっていることに気がついたものの、手を休める時間ですらももったいない。
 何せ銀色の宵まではわずかな時間しか残されていないのだ。

 実はこのとき、頭の周りをふよふよと飛び回っているぱみゅが、薄桃色の花でかわいらしいネックレスを作っていたのであったが、コウタはそんなことにさえもまったく気がつかなかった。


 ややあって、からすの子守歌が頭上を通り過ぎたそのころ、コウタはようやく思い出したように左目をこすった。
 もうすっかり日が暮れてしまったというのに、さがしてもさがしても、四つ葉のクローバーは見つからない。
 手元の草花が、徐々に赤い闇で覆われてゆくのを感じるたびに、コウタは内心焦りはじめていた。
 焦ってもどうしようもないことだとはわかっていても、だんだんと暮れゆく時間の砂時計が、草をかきわける指先をまどわせる。

 一度深呼吸をしてみたほうがいいのかもしれない。
 コウタはぎゅっときつく目を閉じて、思う存分に夕刻の空気をすいこんだ。
 わびしさばかりがつのる、一日のおわりを詰めこんだ露の香りがした。
 クローバーを見つけだすことが、いったいなににつながるのかもわからないまま、わけもわからず夢中になってさがしてみたけれど、それでも結局見つけることができなかった。
 自分はいったい何がしたかったのだろう、とコウタはやりきれない思いを抱えて顎を上げる。

 ……と、持ち上げたまつげの先、急斜面になった崖に向かって突き進む、小さな緑色のかたまりを見つけた。




 

 

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