コウタは思わず、ぽかんと口をあけて絶句してしまう。
それは、おそれもしらぬ小さな小さな妖精だった。
羽化したばかりの蝶々のように、半透明に透き通った羽を動かして、彼女はのぼる。ぐんぐんのぼってゆく。
あれほど危ないとルークに念を押されたにも関わらず、どうしてあのような危険なことをしているのだろう。
クローバーさがしに熱中している間に、いつしか彼の話を忘れてしまったのだろうか。
……いやな予感が背筋を這った。
再び作業に戻ろうとしたものの、結局崖の上に張り付けた二つの視線は、なかなかもとの場所に戻すことができない。
ややあって、意気揚々とした歓声とともに、二対の触覚がひょこりと姿を現した。
まめつぶほどに小さな手のひらには、同じくまめつぶほどに小さな、それでもたしかにたくましく伸びる四つ葉のクローバーが握りしめられている。
コウタは目を見開いた。
灯台下暗しというやつだろうか、まさか最も行くことを避けていた禁忌の場所に、さがし求めたものがあるとは思いもしなかったのだ。
あきらめかけていた胸の内に、ふわっと歓喜にも似た彩りが吹きこんでくる。
その瞬間、まさに閃光のひらめきのような速さで、ぱみゅの姿がぶわっと消えた。
え、と見開いたアンバーカラーの瞳に、一拍遅れてひときわ強い風が吹きつける。
あわてて視線を持ち上げてみれば、くるくると回転しながら夕陽の上に落ちてゆく、見知った妖精の姿が映った。
あんな高さから落ちてしまったら、いくら彼女とはいえどたえられるとは限らない。
コウタは息をのむ間もなく唇を引き結ぶと、草花が悲鳴をあげるほど強く地を蹴った。
伸び上がるように手を伸ばした視界の隅で、四つ葉のクローバーがきらきらとまばゆい光を放っている。
最初は、太陽の光を受けて輝いているだけなのかと思っていた。
けれど、それが内側から瞬く光なのだということがわかると、コウタは不思議な金縛りにおそわれて、ものもいえず呆然と立ち尽くしてしまう。
――すべての時がとまったかのように、浮遊する沈黙に包まれて、ひとりの可憐な少女が現れた。